昭和19年に東海沖を震源とした巨大地震が発生していた事実を最近知った。この地震は当初「遠州沖大地震」と呼ばれていたが、戦時下において東海地域の軍需工場が壊滅的な打撃を受けたことを隠匿するため、「昭和東南海地震」という名前に変更したらしい。気象庁によると地震規模はマグニチュード7.9(震度7)、津波の高さが8~10mで、死者行方不明者は1223人という大規模な地震であったらしい。
東海地方で発生した直近の地震と言えば「1854年の安政地震」と「1707年の宝永地震」しか思い浮かばない人が多いのではないだろうか?戦時下において「昭和東南海地震」の発生が隠蔽された事情は想像できるが、現代においても「昭和東南海地震」という大震災は歴史から忘れ去られ語られることはない。
この図↓は南海トラフで起きた地震の発生年と推定震源域をまとめた図で、A~Fは地震の震源域を示している。A+Bが「南海地震」、C+Dが「東南海地震」、Eが「東海地震」、Fが「関東地震」の震源域である。(2008年/小山先生による図に赤文字を筆者加筆)

つい最近まで大きな話題となっていた「東海地震」の震源域 Eは、南海トラフで起きる地震震源域のほんの僅かな一部であることがわかる。しかもこの「東海地震」の震源域とされる部分で過去に発生した地震に周期性があるか?と見れば、この図を見る限り疑わしいと感じた。(完全に否定は出来ないが)一方、A+Bの「南海地震」、C+Dの「東南海地震」については一定の周期性があるように見える。
もし東海地震が東南海地震の一部、あるいは東南海地震と連動して起こると見れば東海地震の発生周期は概ね100年以上となる。であるから1944年に昭和東南海地震が発生しているので今後20年以上は大丈夫であるという楽観論もあり得る事になる。調べてみると、かなり昔からそのように考えている学者の存在もわかったが、世間では話題になることは無かった。
海外では2009年イタリアのラクイラ地震で、地震は起きないと安全宣言をした国の委員会が刑事責任を問われ有罪となった。また国内では2014年に御嶽山が噴火し亡くなった遺族が気象庁に対して訴訟を起こした。これらの事件がきっかけとなって国内の地震学者達はビビったのか、2017年には東海地震の予知を前提とした大規模地震対策特別措置法(大震法)に基づく防災対応が見直されるようになり、中央防災会議の作業部会では東海地震の予知は「(現時点では)できない」と発表されるようになった。
地震、火山活動、気象の変化等、地球環境のメカニズムは複雑で、未だ解明されていないのが現実であるのに経済界や行政が科学者を利用して「科学を都合の良いエピソードに合わせる」ような出来事が今でも多く発生している。「分からない」ことは「分からない」と言うのが科学者の良心だと思う。
地球を宇宙から俯瞰して見れば「地震のプレート理論」は概ね正しく見えるが、「東海地震」をプレート理論だけで説明するとなると難しい。実際に日本各地で発生している海溝型地震(活断層による地震を除く)の震源域を調べるとプレート境界線上というよりも陸地側(西)に入った海底の平坦部分(少し窪んだ盆地のような場所)で多く発生している。

東日本大震災の震源域もそうだったが、地震発生のメカニズムはプレート理論の「ピンと弾け、ブルブルとなる」ような単純な話ではなさそうだ。「
地球温暖化のCO2説」「
白糸ノ滝湧水モデル図」「
曽我物語」等々、現実はそんな単純な話ではないのに、複雑な話は人々は受け入れない。エピソードのストーリーとして不都合な事実は無かったことにして単純化する。そうすることで理解出来たと錯覚するのが人間の心理だろうか?
「机上の空論」を宣言をした大震法の見直しによって、科学から占いへと格下げされた地震予知が、我々の実生活にどのように影響しているか?そのベンチマークとして地震保険料がどう扱われているのか調べてみた。この表↓は地震保険金額1000万円当たりの保険料。

静岡県民は既に大きな震災被害を経験した岩手県の3.6倍、福島県の2.9倍、宮城県の2.3倍、兵庫県、新潟県の3.2倍、熊本県の3.6倍も高い保険料を長い間払ってきた。東海地震の予知は「(現時点では)できない」と明記される現在に至っても同じ南海トラフ震源域の仲間である本家本元、愛知、三重、和歌山よりも1.7倍高い保険料を払っている。千葉県、東京都、神奈川県、静岡県の地震保険料が何故こんなにも他よりも高いのか?都市直下型の地震というだけでは説明がつかない。しかし、地震保険が火山噴火による被害にも対応すると聞けば直ぐにピンとくる。保険会社は富士山噴火に対するリスクを地震よりかなり高く見積もっているのではないだろうか?一方で同じ富士山仲間である山梨県が格安に設定されているという謎は残るが・・・・・

text by shibakin